国民文学の歴史

 「国民文学」は短歌誌として日本有数の古い伝統があります。創刊以来一世紀を越す歴史を担ってきた先人達について記します。

創刊

 創刊号(1914年)
 創刊号(1914年)

 1914年(大正3)6月、窪田空穂責任編集による小説や文芸評論、美術に関する月刊誌として創刊。誌名は前田晁(小説家・翻訳者)の命名による。

 

「発刊の辞」 窪田 空穂

「国民文学」と題して、文芸、美術に関する月刊雑誌を、我等の手によって新たに発行することとなった。我が国の文芸、美術をして、より強い国民的光輝を帯びたものとならせたいという願いは、我等も多くの人と同じく抱いている。「国民文学」はこの願いを願いとしている。そうした文芸、芸術の芽生えて成長していくために、土壌を耕す一つのものとなりたい、雑草を抜くものとなりたいと思っている。

創設者

   窪田 空穂
   窪田 空穂

窪田  空穂 くぼた うつぼ   (1877〜1967)

 

 歌人・国文学者、長野県生れ、本名通治、早大教授。「明星」を経て吉江孤雁らと「山比古」を創刊。現実主義的で明穏雅な歌風。万葉・古今・新古今の評釈などにも業績を残す。

 

 詩歌集『まひる野』

 歌集:『土を眺めて』など

       

歴史

 1914年(大正3)創刊当初は 国文学研究に空穂の他、荻原井泉水、松村英一、島村抱月、岩野泡鳴らが執筆。評論に長谷川天渓、半田良平、吉江孤雁、相馬御風、前田晁ら。創作は、田山花袋、徳田秋声、中村星湖、水野葉舟、豊島与志雄らが執筆した。国民の生活、思想を対象とした 従来なかった文芸雑誌として 注目されたが、7号からは空穂の選歌欄が母体になった十月会が中心の会員雑誌となり、英一、良平、植松寿樹、葉舟、対馬完治、川崎杜外、菊池庫郎、田辺俊一、渡辺順三、本居亮一、豊島逃水、谷鼎らが主体の歌誌となった。

継承者

   松村 英一
   松村 英一

松村  英一 まつむら  えいいち  (1889~1981)

  

 歌人、東京都生れ 本名ひでかず。1917年、当時歌壇唯一の総合誌「短歌雑誌」の創刊、日本歌人クラブ結成、名誉会員。現代歌人協会創立、名誉会員。読売新聞選歌欄選者、宮中歌会始選者。短歌は「悲哀の文学」と言い、人間の根源的な悲哀を認め、そのいのちを把握、表現することを歌の基調とした。

  歌集:『やますげ』『初霜』『山の井』『樹氷と氷壁』など17冊、

  他に10数冊の評論・評釈集がある。

  松村英一は15歳頃から作歌、16歳の時、「電報新聞」(現・毎日新聞)の短歌欄で窪田空の選を受け、十月会の発足の折、初めて空穂に会う。空穂28歳、英一16歳、半田良平、植松壽樹15歳の運命的出会いだった。この「十月会」を母胎とし短歌中心の会員雑誌に組織を変更しのちに発刊されたのが、創刊者窪田空穂、継承者松村英一による「国民文学」である。 

 

1917年(大正6)9月から英一が編集を担当。

1920年(大正9)完治、俊一らが「地上」を創刊。

1924年(大正13)「国民文学」「地上」「朝の光」を合同して「国歌」と改めるが、翌

          年「国民文学」に戻る。

1932年(昭和7)11月、創刊200号記念として空穂・英一共編の別冊『徳川時代和歌

          の研究』を刊行。

1934年(昭和9)空穂門下の親交を目的とした「空穂会」第一回が開催。

1937年(昭和12)空穂の薦めにより英一が編集・発行人となる。

1946年(昭和21)寿樹が「沃野」を創刊。この頃、仮屋安吉、大場寅郎、隅田葉吉、新

          免忠、許山茂隆、西原重敏、大塚厚一、大塚泰治、藤村省三、大

          内與五郎、遠藤貞巳、高山房代、松本滋代、河井たか子らが輩出。     1958年(昭和33)創刊500号記念として『松村英一全歌集』、『半田良平全歌集』を

          刊行。編集委員、地区委員制を設ける。

1962年(昭和37)7月、創刊50周年記念号を刊行。

1966年(昭和41)10月、創刊600号記念号を刊行。

1970年(昭和45)一般選歌を選者が分担。

1979年(昭和54)編集・発行・会計各室を設ける。

1980年(昭和55)会員の自由意志による選者指定制を実施。

1981年(昭和56)2月、松村英一逝去。

1982年(昭和57)2月号「松村英一追悼特集号」として刊行。

1987年(昭和62)千代國一が編集発行人となる。 白井善司、小籏源三、藤居教恵、永田

           憲一、山本友一、千代國一、遠山繁夫、岩城正春、藤井清、白駒一義

           井上健太郎

松村英一以降

   千代 國一
   千代 國一

千代  國一 ちよ  くにいち  (1916~2011)

 

 新潟県生まれ。昭和15(1940)年、「国民文学」に入会 し、松村英一に師事。昭和62(1987)年、「国民文学」編集発行人となる。昭和64(1989)年「宮中歌会始」の選者となり、平成3  (1991)年から同9(1997)年まで選者をつとめる。歌集『鳥の棲む樹』『冷気湖』ほか、13の集を成し、写実に徹した堅実な歌風を確立する。評論集に『批評と表現』『態度と表現』など6冊の書がある。

 

1993年(平成5)6月、創刊80周年記念号を刊行。

1994年(平成6)選者は國一、藤井清、中井正義、横山岩男、吉田三郎、寺田武、御供平佶。

                              編集委員は國一、清、岩男、平佶、土屋正夫、尾澤紀明、下村百合江、窪田

                              司郎。

1997年(平成9)松村英一評論集『過ぎて来た道・これからの道』を刊行。

2003年(平成15)6月創刊90周年記念号を刊行。『松村英一の百首』を社中同人の執筆で

                              刊行。

2005年(平成17)選者編集委員に司郎、百合江、川﨑勝信。選者に永井正子、青木陽子。

                                 編集委員に前村泰子。

2007年 (平成19) 1月から代表に國一、発行人に橫山岩男、編集人に御供平佶

2008年(平成20)『千代國一の二百首』を社中同人の執筆で刊行。

2010年(平成22)『松村英一序文集』を刊行。編集委員に三浦武。

2011年(平成23)   8月千代國一逝去。

2012年(平成24) 8月千代國一追悼特集号。

2013年 (平成25)6月創刊100周年記念号刊行。8月国民文学百周年記念全国大会。

2014年 (平成26)   4月から選者に三浦武。

2020年(令和2) 1月から選者に吉田直久。

2023年(令和5) 代表に御供平佶 編集人に橋本千惠子、発行人に吉田直久。

2024年(令和6)   1月から選者に佐伯雅司。